新リース会計基準(企業会計基準第34号)において、将来支払うリース料をバランスシートに載せるためには、「現在価値」に引き直すための「割引率」を決めなければなりません。
割引率は、負債の額を直接左右する「数字のレバー」のようなものです。今回は、実務上もっとも多く採用されることになる「借手の追加借入利子率」の算定ロジックを中心に、監査でも問われる詳細な論点を解説します。
- 優先順位:原則は「リースの計算利子率」だが、不明なら「追加借入利子率」
- 構成要素:リスクフリーレート + 自社の「信用スプレッド」
- 算出手法:既存の借入実績からスプレッドを抽出する実務的な方法
1. 割引率はなぜ重要か?(現在価値の考え方)
新基準では、10年間にわたって支払う総額1億円の家賃を、そのままB/Sに載せるわけではありません。将来支払うお金には利息相当分が含まれていると考え、それを差し引いた「現在価値」で計上します。
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※利率が低いほど、将来の支払額が「今の価値」に近く評価されるため、負債額は膨らみます。
2. 割引率の選択:実務では「追加借入利子率」が主流
基準(第15項)では、割引率の優先順位を以下のように定めています。
- リースの計算利子率(原則):貸手がリース料を決める際に用いた利率。ただし、借手がこれを知ることは困難なケースがほとんどです。
- 借手の追加借入利子率(実務上の主流):借手が、同様の期間・同様の担保条件で、資産を取得するために必要な資金を借り入れるとした場合の利率です。
3. 追加借入利子率の算定ロジック
「追加借入利子率」を算出する際、単に「普段銀行から借りている平均金利」を使うだけでは不十分です。監査対応を見据えた場合、以下の構成要素に分解して論理的に構築する必要があります。
追加借入利子率の構成要素
- ① リスクフリーレート(市場金利): 国債の利回りなど、リスクがないとされる指標金利です。リース期間と一致する期間の金利を採用します。
- ② 信用スプレッド(自社リスク): 自社の信用力に応じて上乗せされるプレミアムです。
4. 実務的な手法:既存の借入金から「スプレッド」を抽出する
社債を発行していない企業にとって、最も合理的な手法は「直近の銀行借入の実績」を活用することです。自社の借入利率と当時の国債利率の差分を「自社の信用スプレッド」として抽出します。
- 実績の確認:直近で銀行から借りた利率を確認(例:1.0%)
- 当時の指標を確認:その借入契約を結んだ当時の同期間の国債利率を確認(例:0.2%)
- スプレッドの確定:1.0% - 0.2% = 0.8%(これがあなたの会社の信用スプレッド)
この「0.8%」を、新たにリースを契約する時点の「リスクフリーレート(今の国債金利)」に足すことで、そのリース専用の割引率を算出します。
既存の借入実績を使う場合、以下の「ズレ」がないか注意が必要です。
- 期間の調整:3年返済の借入実績を10年の借家契約に使う場合、期間が長い分、スプレッドを少し上乗せ(タームプレミアムの考慮)する必要があるか検討します。
- 担保の有無:無担保での借入実績しかない場合、資産が担保代わりとなるリース取引では、スプレッドを少し低く見積もれる可能性があります。
5. 割引率決定における実務上の留意点:期間のミスマッチ
割引率は、原則としてリース期間ごとに設定するのが理想です。例えば、3年の車両リースと15年の店舗賃貸借では、参照すべき市場金利(リスクフリーレート)が異なります。
ただし、実務負担を考慮し、個々のリース契約に重要性が乏しい場合には、複数のリース契約をポートフォリオとしてまとめ、一定の期間ごとに共通の割引率を適用することも実務上の選択肢となります。
6. 会計士の視点:割引率の「再測定」
原則として、一度決めた割引率はリースの全期間を通じて固定されます。しかし、以下のようなケースでは、その時点の割引率で再測定を行う必要があります(基準 第22項)。
- リース期間の変更(延長オプションの行使が確実になった場合など)
- リース料の改定(指数やレートに連動する場合)
金利が上昇局面にある場合、再測定によってリース負債の額や利息費用の計上額が変動し、利益計画に影響を与える可能性があります。
まとめ:割引率は「エビデンス」が命
新リース会計基準における割引率の選定は、財務諸表のインパクトが非常に大きい項目です。特に自社の借入実績をベースにする場合は、「借入時点の指標金利(国債など)を正しく差し引いているか」といったロジックを整理しておくことが、スムーズな監査への近道となります。

