新リース会計基準(企業会計基準第34号)において、最も実務的な判断を要するのが「リースの識別」です。契約書の名称が「サービス契約」や「業務委託」であっても、実態として資産を支配していればリースとしてB/S計上が求められます。
その支配を判定する最大のポイントが、「資産の使用を指図する権利」を借手が持っているかどうかです。今回は、最新の適用指針やIFRSの考え方に基づき、その判定基準を詳しく解説します。
- 本質:「何のために、どのように」資産を使うかを決める権利があるか
- 意思決定:使用方法を変更できる権利が顧客(借手)にあるか
- 事前決定の論点:使用方法が最初から決まっていても、運用権があれば指図権ありとみなされる
1. リースの識別:2つの権利が揃っていますか?
契約の中に「特定された資産」があり、顧客がその使用を支配する権利を持っている場合に、リースと識別されます。支配の要件は以下の2つです(指針 第145項)。
- 経済的便益:使用から生じる経済的便益のほぼすべてを享受する権利
- 使用の指図:使用方法を指図する権利
どちらか一方でも貸手に権利が残っている場合、それはリースではなく「サービス(役務)」として処理することになります。
2. 使用方法に係る「意思決定」の例示(IFRS16号準拠)
資産の使用方法を指図する権利があると言えるためには、「使用方法(何のために、どのように使用するか)」を変更する権利が必要です。IFRS16号および日本基準では、以下の意思決定が例示されています。
使用方法を変更できる意思決定の例(重要)
- アウトプットの種類の決定:その機械で何を作るか、そのスペースで何を売るか。
- 生成するタイミングの決定:いつ稼働させ、いつ停止させるか。
- 生成する場所の決定:どこに配置し、どこへ移動させるか。
- 生成するかどうかの決定:アウトプット(製品・サービス)を生成するか否か。
※逆に、「資産の保守をどう行うか」といった決定は、通常、資産の使用方法そのものへの指図とはみなされません。
3. 【深掘り】使用方法が「事前に決定」されている場合は?
専門委員会資料(20220629_05)でも議論されている重要な論点です。太陽光発電所や特定の製造ラインのように、「最初から使い方が決まっていて、期間中に誰も設定を変えない」ケースはどう判断すべきでしょうか?
適用指針の設例9によれば、以下のいずれかであれば顧客が「指図する権利」を持っているとみなされます。
顧客が、資産を操作・運用する権利(または他者に操作を指図する権利)を有しており、貸手がその指図を変更できない場合。
顧客が、使用方法が事前に固定されるような形で、資産の設計に関与した場合。
4. 最新設例で考える「指図する権利」の具体像
公表された最新の設例(適用指針 設例1〜9)から、実務で参考になるケースをピックアップしました。
例1:専用の鉄道車両(リースに該当)
顧客が特定の鉄道車両を5年間使用し、何を運ぶか、いつ運行するかを指図できる場合。貸手は車両の保守のみを行い、運行計画に介入できないため、これはリースです。
例2:特定の光ファイバー(リースに該当)
特定の光ファイバー芯線を借切り、顧客が自社の装置を接続して通信内容やタイミングを完全にコントロールしている場合。貸手は物理的な断線修理のみを行うため、これはリースです。
例3:データ容量の利用(サービスに該当)
「ネットワークの○GB分を利用する」という契約で、貸手がどのルートや光ファイバーを使ってデータを送るかを自由に決められる(資産の入替権がある)場合、これはサービス(役務)であり、リースではありません。
5. 会計士のアドバイス:「実質的な権利」か「保護的な権利」か
貸手が契約書に「このような使い方は禁止」と書いている場合、それは直ちに顧客の指図権を否定するものでしょうか?
「法令を守る」「資産を適切に維持する」「危険な使い方をしない」といった貸手の権利は、貸手の投資(資産)を守るための保護的な権利に過ぎません。これらが顧客の自由な営業・運用を妨げない範囲であれば、顧客に「指図する権利」があると判断されます。実務上は、制限事項が「経営上の意思決定を縛るものか、単なる安全管理か」を見極めることが重要です。
まとめ:契約書から一歩踏み込んだ実態調査を
「資産の使用を指図する権利」の判定は、新リース会計基準における最もテクニカルな部分の一つです。特に「運用・操作の権限」が誰にあるのか、契約締結時の「設計」にどこまで関与したのかという視点は、これまでの賃貸借処理では意識されなかったポイントです。
まずは自社の業務委託契約やレンタル契約の中から、「特定の資産」に依存しているものを洗い出し、今回解説した「使用方法の決定権」の所在を確認することから始めましょう。

