この記事のポイント
グループ通算制度における税効果会計で、最も実務担当者を悩ませるのが「繰延税金資産(DTA)の回収可能性」の判断です。損益通算ができるようになったことで、判断プロセスがより複雑になりました。この記事では、難解なルールを3つの重要ポイントに分解し、フローチャートや比較表を使って徹底的にかみ砕いて解説します。
1. ポイント①:税金の種類で判断を分ける
まず大前提として、グループ通算制度の対象となる税金は「法人税」と「地方法人税」のみです。「住民税」や「事業税」は対象外で、これまで通り単体納税となります。
そのため、DTAの回収可能性は、これらの税金を明確に分けて判断する必要があります。
税金の種類 | グループ通算制度 | DTA回収可能性の判断方法 |
---|---|---|
法人税・地方法人税 | 対象 | グループ全体の課税所得を考慮して判断する(後述) |
住民税・事業税 | 対象外 | 従来通り、その会社単体の将来課税所得に基づいて判断する |
実務上の注意
税効果計算システムなどを使わずにExcelで手計算している場合、この税金ごとの判断ロジックを正確に組み込むのは非常に困難です。計算ミスが発生しやすいポイントなので、細心の注意が必要です。
2. ポイント②:個別財務諸表における「企業の分類」判定
法人税・地方法人税のDTA回収可能性を判断する際、会社を収益力に応じて5つの分類に分け、その分類ごとに計上可能額を判断します。グループ通算制度では、この「分類」の決め方に特有のルールがあります。
フローチャート:個別DTAの企業分類判定
START:ある会社(A社)のDTA回収可能性を判断したい
▼
ステップ1:2つの分類を評価する
【評価1】A社単体の収益力に基づく分類
(例:過去3期赤字のため「分類4」)
【評価2】通算グループ全体の収益力に基づく分類
(例:グループ全体は黒字で「分類2」)
【評価1】A社単体の収益力に基づく分類
(例:過去3期赤字のため「分類4」)
【評価2】通算グループ全体の収益力に基づく分類
(例:グループ全体は黒字で「分類2」)
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ステップ2:2つの分類を比較する
A社単体の「分類4」 vs グループ全体の「分類2」
A社単体の「分類4」 vs グループ全体の「分類2」
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結論:より上位(有利な方)の分類を採用する
→ この場合、「分類2」をA社の分類としてDTAの回収可能性を判断できる!
→ この場合、「分類2」をA社の分類としてDTAの回収可能性を判断できる!
このように、自社が赤字でも、グループ全体が黒字基調であれば、より多くのDTAを計上できる可能性があるのが大きな特徴です。
3. ポイント③:繰越欠損金の2つの種類
グループ通算制度では、税務上の繰越欠損金が「特定繰越欠損金」と「非特定繰越欠損金」の2種類に分かれます。これもDTAの回収可能性に影響します。
種類 | いつ発生した欠損金か | 控除(利用)方法 | DTA回収可能性の考え方 |
---|---|---|---|
特定 繰越欠損金 |
グループ通算制度の開始・加入前に発生したもの | 自社の所得からしか控除できない | 将来の自社の課税所得の見積額の範囲内で回収可能か判断 |
非特定 繰越欠損金 |
グループ通算制度の開始後に発生したもの | グループ全体の所得(他社の所得含む)から控除できる | 将来のグループ全体の課税所得の見積額の範囲内で回収可能か判断 |
特に非特定繰越欠損金は、グループ内の他社の利益とも相殺できるため、特定繰越欠損金に比べてDTAとして回収できる可能性が高まります。
まとめ
DTA回収可能性 判断のまとめ
- 税金の種類で分ける:「法人税・地方法人税」と「住民税・事業税」で判断ロジックが異なる。
- 企業の分類は有利な方で: 個別財務諸表では、自社単体の分類とグループ全体の分類を比べ、より上位の分類を採用できる。
- 欠損金は2種類:「特定(自社の所得からのみ控除)」と「非特定(グループ所得から控除可)」で回収可能性のスコープが違う。
これらのルールは相互に関連し合うため、税効果の計算は非常に複雑になります。正確な会計処理のためには、ルールの深い理解と、それを反映できる計算プロセスの構築が不可欠です。