【IFRS入門】有給休暇引当金の会計処理をわかりやすく解説!仕訳例とケーススタディ付き

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この記事のポイント

IFRS(国際財務報告基準)を適用する企業にとって、「有給休暇引当金」の計上は避けて通れない重要な会計処理です。日本の会計基準ではあまり馴染みがないため、戸惑う方も少なくありません。この記事では、IFRSにおける有給休暇引当金の基本ルールから、実務で役立つ具体的なケーススタディ、仕訳例までを分かりやすく解説します。

1. なぜ有給休暇で引当金が必要なのか?(IAS第19号の考え方)

IFRSでは、有給休暇を「従業員が過去に提供した労働サービスに対する対価」と考えます。これはIAS第19号「従業員給付」で定められている短期従業員給付の一種です。

STEP 1: 労働の提供
従業員が会社のために働く
STEP 2: 権利の発生
対価として有給休暇を取得する権利が生まれる
STEP 3: 債務の発生
会社は将来、有給休暇を付与する(または買い取る)債務を負う

つまり、期末時点で従業員がまだ使っていない有給休暇は、会社が将来支払うべきコスト(債務)とみなされます。そのため、その将来の支出を見積もり、当期の費用として引当金を計上する必要があるのです。

2. 基本的な会計処理と仕訳例

引当金の考え方を、2つの基本的な例で見ていきましょう。

基本例1:前年の労働で付与された休暇を、当期中にすべて消化した場合

このケースでは、前期に費用計上した引当金が、当期に使われるだけで、当期の損益には影響を与えません。

【前提】
・前期末に、当期に消化される見込みの有給休暇引当金を100万円計上済み。
・当期末時点では、翌期に繰り越される未使用の有給休暇はゼロになった。

① 前期末の仕訳(再掲)

(借方)有給休暇費用 1,000,000 /(貸方)有給休暇引当金 1,000,000

② 当期首の仕訳(洗い替え)

まず、期首に前期末の引当金を全額戻し入れます。

(借方)有給休暇引当金 1,000,000 /(貸方)有給休暇費用 1,000,000

※この結果、従業員が休暇を消化した際の給与支払いは、通常の「給与手当 / 現金預金」で処理します。

③ 当期末の仕訳

当期末の未使用休暇はゼロなので、新たに計上すべき引当金もゼロです。そのため、仕訳は不要です。
結果として、当期の「有給休暇費用」は期首の戻し入れ(貸方100万)のみとなり、前期に費用計上済みであることが正しく反映されます。

基本例2:当期末時点で、翌期に消化される休暇が見込まれる場合

こちらが、引当金を計上する最も典型的なパターンです。

【前提】
・当期の労働サービスの結果、従業員の未使用の有給休暇が期末に残っている。
・計算の結果、翌期に消化される見込み額は120万円と見積もられた。

当期末の仕訳

将来消化されると見込まれる120万円を、当期の費用と引当金として計上します。

(借方)有給休暇費用 1,200,000 /(貸方)有給休暇引当金 1,200,000

これにより、従業員が労働サービスを提供した当期の費用として、将来の休暇取得コストを正しく認識することができます。

3.【ケーススタディ】こんな場合はどう計算する?

実務では、会社の規定によって様々なケースが考えられます。代表的なパターンを見ていきましょう。

ケース1:権利が失効しない場合(退職時買取あり)

退職時に未使用の有給休暇を会社が現金で買い取る義務がある場合です。このような権利を「権利確定済(Vested)」と呼び、将来のキャッシュアウトが確実なため、未使用日数の全量が引当金の計算対象となります。

ケース2:退職時に現金化できないが、繰越可能な権利

「退職してもお金にはならないが、翌年度に繰り越して利用できる」というケースです。このような権利は「権利未確定(Non-vesting)」と呼ばれますが、これも引当金の計上対象となります。

なぜなら、従業員は翌年度、労働を提供しなくても給与を受け取りながら休暇を取れるため、会社にとっては将来のキャッシュアウト(またはサービスの損失)につながる債務であることに変わりはないからです。

ケース3:繰越日数に上限がある場合

「有給休暇は翌年度に繰り越せるが、最大40日まで」といった上限が設けられているケースです。

状況 引当金の計算対象となる日数
期末の未使用日数が30日(上限40日を下回る) 30日が計算対象となります。
期末の未使用日数が50日(上限40日を上回る) 繰越不能で失効する10日分は将来の債務とならないため、上限である40日が計算対象となります。

このように、繰越が認められず期末に失効することが確実な日数分は、引当金の計算から除外します。

ケース4:将来の消化率を見積もる場合

「繰り越された有給休暇は、過去の実績から見て全量は消化されず、一部は失効している」という実態がある場合、その将来の消化率(または失効率)を見積もりに反映させることができます。

計算例(消化率を考慮)
  • 引当金の基本的な見積額:100万円
  • 過去のデータから、繰越休暇の将来の消化率は80%と見積もられる。

計算式

引当金見積額 = 基本的な見積額 × 将来の消化率

1,000,000円 × 80% = 800,000円

このように、より企業の実態に即した、合理的な金額を引当金として計上することが求められます。

4. 翌期の処理:洗い替え方式の全体像

実務で一般的な「洗い替え方式」の流れを改めて整理します。この方法は、期中の管理がシンプルになるメリットがあります。

  1. 期首:前期末に計上した引当金の残高を、すべて反対仕訳で戻し入れ、費用勘定をマイナスにする。
  2. 期中:従業員が有給休暇を取得した際は、特別な処理はせず、通常通り給与として処理する。
  3. 期末:当期末時点の未使用日数などに基づき、改めて引当金の必要額を計算し、全額を計上する。

この結果、損益計算書に計上される年間の「有給休暇費用」は、(期末計上額 - 期首に戻し入れた額)となり、その期の純粋な引当金増減額が費用として反映されることになります。

まとめ

IFRS 有給休暇引当金の重要ポイント
  • 計上は義務:IAS第19号に基づき、従業員の過去の労働に対する対価として引当金を計上する必要がある。
  • 権利の種類は問わない:退職時の買取可否にかかわらず、繰り越し可能な権利は引当金の対象となる。
  • 合理的な見積りが必要:繰越上限や将来の消化率など、企業の実態を反映した合理的な見積りが求められる。
  • 費用計上の期間を正す:引当金を用いることで、休暇取得のコストを、実際に労働サービスが提供された期間の費用として計上できる。