皆さん、オフィス機器、車両、店舗設備など、事業を行う上で「リース契約」は非常に身近な存在ですよね。
この「リース」の会計処理に関するルールが、今、大きく変わろうとしていることをご存じでしょうか?
企業会計基準委員会(ASBJ)が、日本基準におけるリース会計基準の改正案を公表しました。
「うちは中小企業だから関係ないのでは?」
そう思った方もいるかもしれません。確かに、今回の改正はまず上場企業や大企業が主な対象となります。
しかし、将来的に事業拡大や上場を目指す中小企業の経営者・CFOの方々、そして現在の財務状況をより深く理解したいと考えている全てのビジネスパーソンにとって、この改正は決して他人事ではありません。
今回は、会計士である私が、ASBJの最新資料に基づき、この新リース会計基準改正のポイントを、「中小企業経営者や上場を目指す方々が今知るべきこと」という視点も交えながら、分かりやすく徹底解説します。
なぜ、この改正が重要なのか?具体的に何が変わるのか?そして、今からどう備えるべきか?一緒に見ていきましょう。
⚡ 本記事で学べること
- ASBJの新リース会計基準改正案の全体像
- 貸し手・借り手それぞれの会計処理における主要な変更点
- 中小企業や上場準備企業がこの改正案をなぜ知るべきか
- 会計士として今から備えておくべき実務上のポイント
1. なぜ今、リース会計基準が変わるのか?(改正の背景)
まず、今回の改正の背景を理解することで、その重要性が見えてきます。
- IFRS(国際財務報告基準)とのコンバージェンスが主要な目的
- 世界的にはIFRS第16号「リース」が導入されており、原則としてすべてのリース契約をオンバランス(貸借対照表に資産・負債として計上)する処理が主流です。
- 日本基準もこれに合わせることで、国際的な企業との財務情報の比較可能性を高めることが狙いです。
- 現行の日本基準では、特に「所有権移転外ファイナンス・リース」について、「オフバランス処理(売買処理)」が認められていましたが、これが大きく変わります。
- より実態に即した財務情報の開示へ
- 従来のオフバランス処理では、多額のリース契約があっても貸借対照表には計上されず、企業の真の負債額や資産の実態が見えにくいという問題がありました。
- オンバランス化により、企業のリースによる「使用権資産」と「リース負債」が貸借対照表に計上され、企業の財務状況がより透明化されます。
2. ASBJ改正案の主要な変更点【会計士が解説する核心】
今回ご提供いただいたASBJの資料(「リースに関する会計基準(案)」解説資料)のP.3「主な論点」を中心に、重要な変更点を解説します。 (参照:ASBJ「リースに関する会計基準(案)」解説資料)
【最も大きな変更点:借り手側(リース利用者側)の会計処理】
原則としてすべてのリースを「オンバランス」へ(現行基準の売買処理の原則廃止)
- 現行基準: 所有権移転外ファイナンス・リースは、「売買処理」として貸借対照表に資産・負債を計上しないオフバランス処理が認められていました(中小企業会計指針でも)。
- 改正案: 原則として、すべてのリース契約について「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上することになります。
会計士視点でのポイント
これにより、企業の総資産と総負債が大きく膨らむ可能性があります。
特に、車両、機械設備、店舗などを多額のリースで利用している企業は、貸借対照表の見た目が大きく変わり、財務指標(後述)にも影響を及ぼします。
【ここに現行基準と改正案でのB/Sの違いを図解で挿入】
例: 現行: リース料を費用計上(B/Sには影響なし)
改正案: 使用権資産(B/Sの資産)とリース負債(B/Sの負債)を計上。
損益計算書では、使用権資産の減価償却費とリース負債の利息費用を計上。
【貸し手側(リース会社側)の会計処理の変更】
所有権移転外ファイナンス・リースの「売買処理」の原則廃止
- 現行基準: 貸し手側では、所有権移転外ファイナンス・リースについて「売買処理」(リース債権と売上を計上)と「金融取引処理」(リース投資資産と受取利息を計上)の選択適用が認められていました。
- 改正案: 原則として「金融取引処理」に一本化されます。 売買処理は例外的にしか認められなくなります。
会計士視点でのポイント
リース会社にとっては、リース契約からの収益認識のタイミングが遅くなる可能性があります(契約時に売上計上ではなく、期間にわたって受取利息として計上されるため)。
リース業界全体のビジネスモデルや財務報告にも大きな影響が出るでしょう。
【その他の重要な変更点】
借り手の利息相当額の算定方法の簡素化(ASBJ資料 P.3 (2))
- 借り手がリース負債の利息相当額を計算する際、計算が複雑になる場合があります。
- 改正案では、実務上の負担軽減のため、一定の場合に簡便な算定方法が適用できる道が検討されています。
会計士視点でのポイント
特にリース契約数が多い企業や、中小企業にとっては、この簡便化規定が適用できるかどうかが実務上の大きなポイントになります。適用できれば、導入負担が軽減されます。
残価保証に係る会計処理の見直し(ASBJ資料 P.3 (3))
- 借り手が保証する残価(リース期間終了時の資産価値)に関する会計処理についても見直しが行われます。
- 改正案では、保証の範囲に応じて、リース負債に含める残価保証額の範囲が明確化される方向です。
会計士視点でのポイント
残価保証があるリース契約は多く、この見直しによってリース負債の金額が変動する可能性があります。自社の契約内容を確認しておく必要があります。
表示方法の見直し(ASBJ資料 P.3 (4))
- 貸借対照表や損益計算書におけるリース関連項目の表示方法についても、より透明性を高めるための見直しが提案されています。
会計士視点でのポイント
財務諸表の利用者(投資家、金融機関など)にとって、リースの影響がより分かりやすくなることが期待されます。
3. 中小企業や上場準備企業がこの改正案をなぜ知るべきか?【あなたのビジネスへの影響】
「うちは中小企業会計指針(または法人税法上のリース会計)だから、この改正は関係ない」
そう考えるのは、今は正しいかもしれません。しかし、将来のビジネス展開を見据えるなら、この改正の動向を知っておくことは非常に重要です。
影響1:将来的な上場・M&Aを見据えるなら必須の知識
- 上場準備: 将来的に株式上場を目指す企業は、上場準備の過程で日本基準(またはIFRS)の会計基準に準拠した財務諸表の作成が求められます。この改正が適用されるタイミングで上場準備を進める場合、対応は必須となります。
- M&A(企業の買収・売却): M&Aを検討する際、買収先の財務状況を正確に把握するため、リース負債の実態を評価する視点は非常に重要になります。また、自社を売却する場合も、買い手から同様の視点で見られるため、財務状況を透明化しておくことは企業価値向上に繋がります。
影響2:金融機関からの評価が変わる可能性
オンバランス化によって企業の負債が増加するため、貸借対照表上のD/Eレシオ(負債資本倍率)やROA(総資産利益率)などの財務指標が悪化する可能性があります。
金融機関が融資判断をする際に、これらの新しい財務指標も考慮に入れるようになるかもしれません。
会計士として
健全な財務状況を保つためのアドバイスや、金融機関への説明資料作成支援も、今後は一層重要になります。
影響3:経理業務フローやシステムの再構築が必要に
- リース契約を個別に識別・評価し、それぞれについて「使用権資産」と「リース負債」を計算し、適切に減価償却や利息費用を計上する必要があります。
- これまでの経理業務に比べ、負担が増大する可能性が高いです。多くのリース契約がある企業では、専用の管理システム導入や会計ソフトの改修が視野に入ってくるでしょう。
4. 会計士が提言!今から備えておくべき実務上のポイント
「まだ先のこと」と放置せず、今から少しずつ準備を進めることが、いざという時のスムーズな対応に繋がります。
📝 経理担当者が準備しておくべきこと
- □ 自社のリース契約状況を正確に把握する
- 現在どのようなリース契約が何件あり、それぞれがどの程度の期間、金額なのかをリストアップしましょう。
- 短期リース(12ヶ月以内)や少額リース(基準案では概ね$5,000以下のリース)の免除規定が適用できるかどうかの判断材料になります。
- □ 基準改正の動向を注視する
- ASBJはまだ改正案を公表した段階であり、今後も審議やパブリックコメントを経て最終的な基準が確定します。適用時期も含め、最新情報を継続的にチェックすることが重要です。
(参照:ASBJ「リースに関する会計基準(案)」解説資料)
- ASBJはまだ改正案を公表した段階であり、今後も審議やパブリックコメントを経て最終的な基準が確定します。適用時期も含め、最新情報を継続的にチェックすることが重要です。
- □ 経理担当者との情報共有と教育
- 新しい基準への対応には、経理担当者の理解と協力が不可欠です。早めに情報共有を行い、必要に応じて研修なども検討しましょう。
- □ 外部専門家(会計士)の活用を検討する
- 複雑なリース契約の識別、会計処理の判断、システム対応、財務指標への影響分析など、自社だけでの対応が難しい場合は、早めに専門家にご相談ください。
- 当事務所でも、新リース会計基準への対応に関するご相談を承っております。
未来を見据えた準備が、あなたの会社の成長を加速させる
新リース会計基準の改正は、企業の財務報告に大きな影響を与える重要なトピックです。
現時点では直接的な影響がないと感じる中小企業の方々も、将来的な事業展開、上場、M&A、そして金融機関からの評価を見据えれば、その動向をしっかりと把握し、必要に応じて早期に対応を検討することが賢明です。
財務情報の透明化は、投資家や金融機関からの信頼を得る上で不可欠であり、企業の持続的な成長を支える基盤となります。
※本記事は、ASBJの「リースに関する会計基準(案)」解説資料に基づき作成されています。最終的な基準は、今後の審議やパブリックコメントを経て確定されます。
※具体的な会計処理については、必ず専門家にご相談ください。


編集長(公認会計士)のコメント
リース会計基準の国際的な潮流を汲む形で、日本基準も大きく舵を切ります。特に借り手側の「原則オンバランス化」は、企業の貸借対照表に大きな影響を与えるため、経営層はもとより、全ての経理・財務担当者にとって喫緊の課題となるでしょう。単なる記帳作業ではなく、会社の財務戦略を根本から見直すきっかけと捉えるべきです。