概要
企業がリース契約を締結し、将来の使用を見越して家賃を前払いすることはよくあります。しかし、その時点で建物などの「使用権(コントロール)」が借手に移転していない場合、IFRS 16に基づく「リース」としての認識はできません。
このような場合、支払った金額は「費用」とするのではなく、「前払費用(資産)」として処理し、使用権が移転した時点で使用権資産に振り替えます。
会計基準の根拠
- IFRS 16.9(リースの識別): 使用権(right to control)が借手にあるかどうかでリース認識を判断。
- IFRS 16.22: リース負債と使用権資産の認識は、リースの「開始日」に行う。
- IFRS 16 附属定義: 「開始日(commencement date)」とは、リース資産の使用権が借手に移転した日。
つまり、コントロールが移転されていない時点でリースとして会計処理はできず、支払いは「前払費用」として資産計上します。
具体例と処理方法
事例
- リース契約開始日:2024年7月
- 賃料の支払日:2025年7月1日(1年間分、1,200万円)
- 使用権(建物の引渡し)取得日:2026年7月1日
- 初年度は賃料免除
会計処理ステップ
【Step 1】使用権未移転時の賃料の支払 → 前払費用
(借方)前払費用 12,000,000 / (貸方)現金 12,000,000
【Step 2】使用権移転時(リース開始) → 使用権資産とリース負債の認識
※ここでは簡便的に利息を除外して説明
前払費用をROU資産に振り替えます。
(借方)使用権資産 12,000,000 / (貸方)前払費用 12,000,000
未払リース料の現在価値でリース負債を認識する必要があります。そのため、2025年7月に支払った分はリース負債として認識しません。
(借方)使用権資産 X / (貸方)リース負債 X
💡 実務上の留意点
- コントロールが未移転なら、たとえ契約が発効していてもリース認識は不可。
- 開始日を特定するために、建物引渡書・使用許可証・立会記録などの文書保管が重要。
- 支払済の金額は「前払費用(資産)」であり、費用として認識しない。
まとめ
項目 | 処理内容 |
---|---|
使用権が未移転 | 前払費用として資産計上 |
使用権が移転した時点 | 使用権資産とリース負債を認識 |
前払費用の取扱い | 使用権資産へ振替 |
※必要に応じて、IFRS 16に基づく割引計算、開示対応、リース料スケジュールも別途作成可能です。