【新リース会計基準】リース期間(Lease Term)の決定:判断基準と実務ポイントを解説

会計

IFRS 16の適用において、リース期間(Lease Term)の決定は重要かつ判断が難しいポイントの一つです。リース期間の設定は、貸借対照表に計上されるリース負債や使用権資産(ROU資産)の金額に直接影響するだけでなく、「短期リース」の適用可否にも関わってきます。

本記事では、IFRS 16に定められたリース期間の考え方や、実務での判断ポイント、最新の解釈委員会の見解も踏まえつつ整理します。

1. リース期間決定の基本フレームワーク

IFRS 16ではリース期間を決定する際、まず以下の2つの期間を明確に区別します。

  • 非取消可能期間(Non-cancellable period)
    両当事者が契約解除できない期間、または貸手のみが解除権を持つ期間を指します(IFRS 16.B34-B35)。この期間がリース期間の下限になります。
  • 執行可能期間(Enforceable period)
    両当事者にとって最大限のリース期間であり、実質的に契約解除が制限されている期間です。解除権がある場合でも、解除によるペナルティや経済的影響を考慮し、実質的にリースが続くと判断される期間を指します。

2. 「ペナルティ」の広い解釈

リース期間の判断にあたり、「解除によるペナルティ」は単に契約上の違約金だけを指しません。IFRS解釈委員会は、以下のような「契約の経済的実態(broader economics)」を考慮するよう指摘しています。

  • 新しいリース先を探すコスト(交渉費用、引越し費用、移転に伴う営業停止損失など)
  • 顧客関係や売上への影響
  • サプライチェーンへの影響
  • リース物件への投資(改装費用など)がリース期間を超えて経済的価値を持つ場合
  • 物件の原状回復コスト

つまり、解除が法律上可能でも、これらの経済的要因が大きい場合は、リース期間を長く見積もる必要があります。

3. 実務でのリース期間の判断例

  • 戦略的建物(本社ビルなど)
    戦略計画に基づく事業計画期間をリース期間とするケースが多いです。
    例)本社ビルのリースは戦略計画に基づき5年と判断。
  • 営業拠点や店舗
    立地の重要度に応じて、異なるリース期間を設定(3年、5年、10年など)。ただし、判断は会社の実態に応じて大きく異なります。
  • 所有資産の耐用年数との整合性
    リース物件内に重要な資産がある場合は、その資産の耐用年数に合わせる場合もあります。

4. リース期間の再評価(Reassessment)

IFRS 16.21および16.20では、リース期間の再評価が求められる場合を規定しています。主に以下のタイミングで再評価が必要です。

  • 新たに行使を決めた延長・解約オプションがある場合
  • 事業方針変更やリース条件の変更など、重要な出来事があった場合(例:予想外の改装投資)

ただし、市場の動向など、当事者の管理下にない変化だけでは再評価は不要です。再評価があれば、リース負債の再測定も行います。

5. 短期リースの取り扱い

IFRS 16ではリース期間が12ヶ月以下で購入オプションがないリースについては、短期リースとして会計処理の簡素化が認められています。ただし、リース期間の判断によりこの短期リースの適用可否も決まります。

「契約上の解除期間が短い」だけで短期リースと判断せず、経済的実態を踏まえてリース期間を慎重に見積もる必要があります。

まとめ

IFRS 16におけるリース期間の判断は単純に契約書の記載に基づくだけでなく、契約の経済的実態を幅広く考慮して行います。経済的な抑止力や事業計画、物件への投資効果などが重要な判断要素です。

リース期間の決定は財務諸表の重要な影響要因になるため、透明性のある開示と、実態に即した合理的な判断が求められます。

参考リンク

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