前回記事(【新リース会計基準 徹底解説②】適用範囲と免除規定を会計士が解説)では、新リース会計基準改正案の「適用範囲」と、実務負担を軽減する「短期・少額リース」の免除規定について解説しました。
「うちの会社もオンバランス処理が必要なリース契約があるみたいだ…。」
「じゃあ、具体的にどんな会計処理をすればいいの?今の費用処理と何が変わるの?」
「会社の財務諸表にはどんな影響が出るんだろう?」
今回は、こうした皆さんの疑問にお答えするため、いよいよ新リース会計基準における借り手側(リース利用者側)の具体的な会計処理に踏み込みます。オンバランス化後の「使用権資産」と「リース負債」の計上から、減価償却費、利息費用の計上まで、仕訳例を交えながら分かりやすく解説します。
さらに、改正によって企業の財務指標がどう変動し、それが経営判断や外部評価にどう影響するかについても、会計士の視点から深く掘り下げていきます。
⚡ 本記事で学べること
- オンバランス化後の「使用権資産」と「リース負債」の具体的な計上方法
- 新基準における「減価償却費」と「利息費用」の認識方法を解説
- D/Eレシオ、ROA、EBITDAなど主要財務指標への影響
- 財務指標悪化への対応策と経営戦略上の考慮点
1. 借り手側の具体的な会計処理を理解する
免除規定を適用しないリース契約は、すべて「オンバランス処理」が必要になります。ここでは、その具体的な流れを見ていきましょう。
ステップ1:リース開始時:「使用権資産」と「リース負債」を計上
リース開始日に、借り手は以下の仕訳を行います。
- 使用権資産(資産): リース料総額の現在価値(利息割引現在価値)に、当初発生費用などを加えた金額で計上します。
- リース負債(負債): リース料総額の現在価値(利息割引現在価値)で計上します。
【例】5年リース、年100万円、割引率3%の場合
(簡略化のため、当初発生費用等は考慮しない)
割引計算により、リース料総額500万円の現在価値が例えば460万円と算出されたとします。
仕訳例(リース開始日):
(借方)使用権資産 4,600,000円 / (貸方)リース負債 4,600,000円
【会計士視点でのポイント】
この「割引率」の算定が実務上、複雑になる可能性があります。リース会社から提示される「リース料率」から逆算したり、企業の追加借入利子率などを参考にしたりと、適切な割引率の選択が重要です。
ステップ2:リース期間中:「減価償却費」と「利息費用」を計上
リース期間中は、以下を計上します。
- 使用権資産の減価償却費: リース期間にわたって、定額法などで費用計上します。
- リース負債の利息費用: リース負債の残高に割引率を乗じて算定し、費用計上します。リース負債は、リース料の支払いを経て徐々に減少していくため、利息費用も期間経過とともに減少していくのが一般的です。
【仕訳例(毎期のリース料支払時)】
(例:年間100万円のリース料を支払い、そのうち利息費用が13.8万円、元本返済が86.2万円の場合)
(借方)減価償却費 XXX円
(借方)利息費用 138,000円
(借方)リース負債 862,000円 / (貸方)現金預金 1,000,000円
【ここにリース負債の償却スケジュールと利息費用の推移を図解で挿入】
例: 年々減少するリース負債残高、それに伴い減少する利息費用、定額で計上される減価償却費のグラフなど
具体的な償却スケジュール(イメージ)
| 期首リース負債残高 | リース料支払額 | 利息費用(割引率3%) | 元本返済額 | 期末リース負債残高 |
|---|---|---|---|---|
| 4,600,000 | 1,000,000 | 138,000 | 862,000 | 3,738,000 |
| 3,738,000 | 1,000,000 | 112,140 | 887,860 | 2,850,140 |
| 2,850,140 | 1,000,000 | 85,504 | 914,496 | 1,935,644 |
| 1,935,644 | 1,000,000 | 58,069 | 941,931 | 993,713 |
| 993,713 | 1,029,520 | 29,811 | 999,520 | 0 |
2. 企業財務指標への「避けられない」影響と対策
オンバランス化は、企業の貸借対照表(B/S)を膨らませ、損益計算書(P/L)の費用構成も変えるため、様々な財務指標に影響を与えます。
影響1:貸借対照表(B/S)の変動
- 総資産の増加: 「使用権資産」が計上されるため、総資産が増加します。
- 総負債の増加: 「リース負債」が計上されるため、総負債が増加します。
会計士視点での影響
D/Eレシオ(負債資本倍率)の悪化: 負債が増えるため、自己資本比率が低い企業ほどD/Eレシオが悪化し、財務の健全性が低下したと見られる可能性があります。
影響2:損益計算書(P/L)の変動
- 従来のリース料(販売費及び一般管理費など)がなくなる。
- 代わりに「使用権資産の減価償却費」と「リース負債の利息費用」が計上される。
- 費用の認識タイミングが変化: 従来の定額のリース料に対し、新基準ではリース開始当初に利息費用が大きくなるため、期間経過とともに費用が減少する傾向があります。
会計士視点での影響
ROA(総資産利益率)の悪化: 総資産が増加するため、ROAは低下する傾向にあります。
EBITDAへの影響: 減価償却費と利息費用はEBITDA(税引前利益に支払利息、税金、減価償却費を加算したもの)の計算では調整されるため、EBITDA自体への影響は小さくなることが期待されます。
影響3:キャッシュ・フロー計算書(C/F)の変動
- 従来のリース料支払いは「営業活動によるキャッシュ・フロー」に含まれていましたが、新基準では「リース負債の元本返済額」は「財務活動によるキャッシュ・フロー」、利息費用は原則として「営業活動によるキャッシュ・フロー」または「財務活動によるキャッシュ・フロー」のいずれかに分類されます。
会計士視点での影響
営業活動によるキャッシュ・フローが増加し、財務活動によるキャッシュ・フローが減少する傾向にあります。C/Fの見た目が改善されると捉えられることもありますが、実態のキャッシュ・アウトは変わらないため、注意が必要です。
3. 財務指標悪化への対応策と経営戦略上の考慮点
財務指標の変動は、金融機関からの評価、格付け、そして投資家からの評価に直結します。適切な対応と説明が不可欠です。
対策1:金融機関・投資家への丁寧な説明
- 新リース会計基準導入によって財務諸表がどのように変動したのか、その背景と実態を丁寧に説明する資料を作成しましょう。
- 「実質的なキャッシュ・アウトフローは変わらない」「オフバランスだったものがオンバランスになっただけ」といった点を強調し、誤解を招かないようにすることが重要です。
対策2:適切なKPI(重要業績評価指標)の再評価
- 従来のD/EレシオやROAといった指標だけでなく、リース負債の影響を調整した「リース調整後D/Eレシオ」や、リース料を営業費用として捉え続けた場合のP/Lなど、実態を反映した補助的な指標を活用することも検討しましょう。
- IFRS適用企業がEBITDAを重視する傾向にあるように、非財務情報(ESGなど)と合わせた総合的な企業価値評価の視点も重要になります。
対策3:リースと購入の再検討、契約の見直し
- オンバランス化によって、リースと購入の経済合理性を再度比較検討する機会となります。場合によっては、購入に切り替える方が有利なケースも出てくるかもしれません。
- 短期リースや少額リースの免除規定を最大限活用できるよう、今後のリース契約の締結方針を見直すことも有効です。
まとめ:数字の裏にある「変化」を読み解き、未来に備える
新リース会計基準におけるオンバランス化は、企業の財務報告に大きな影響を与えます。しかし、これは決してマイナスな変化だけではありません。
リース契約の実態がより透明化され、企業の真の財務状況が明らかになることで、より質の高い経営判断や、投資家・金融機関との信頼関係構築に繋がる機会と捉えることができます。
会計処理の具体的なイメージを掴み、それが自社の財務指標にどう影響するかを正確に理解し、今から適切な対策を講じることが、これからの企業の成長を支える重要なステップとなるでしょう。
※本記事は、ASBJの「リースに関する会計基準(案)」解説資料に基づき作成されています。最終的な基準は、今後の審議やパブリックコメントを経て確定されます。
※具体的な会計処理については、必ず専門家にご相談ください。


編集長(公認会計士)のコメント
新リース会計基準への対応は、単なる経理作業の変更に留まりません。特に「オンバランス化」は、企業の貸借対照表を大きく変動させ、その結果として重要視される財務指標にも影響を与えます。この影響を正しく理解し、経営層や金融機関、投資家に対して適切に説明できる体制を整えることが、今後の企業の評価を左右するでしょう。具体的な数値例でイメージを掴むことが重要です。