1. 無形資産の定義:3つの要件
ポイント:識別可能性、支配、そして将来の経済的便益
IAS第38号において、ある項目が無形資産として認識されるためには、まず定義を満たす必要があります。この定義は「識別可能性」「企業による支配」「将来の経済的便益の存在」という3つの重要な属性から構成されます。
- 識別可能性 (Identifiability): 資産が企業から分離または分割可能であるか、あるいは契約その他の法的権利から生じること。のれんと区別するための重要な要件です。
- 支配 (Control): 企業が、その資産から生じる将来の経済的便益を確保でき、かつ第三者のアクセスを制限できる能力を有していること。
- 将来の経済的便益 (Future Economic Benefits): 製品の売上、コスト削減、その他の便益の形で企業に流入するキャッシュ・フローの増加をもたらすこと。
これらの定義を満たし、かつ「コストを信頼性をもって測定可能」で「将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高い」場合に、無形資産として認識されます。
2. 実務上の核心:内部で創出された無形資産
2-1. 「研究フェーズ」と「開発フェーズ」の厳格な分離
内部創出プロジェクトから無形資産が生じるか否かを評価するため、IAS第38号はプロジェクトを「研究フェーズ」と「開発フェーズ」の2段階に分類することを要求します。この分類が、会計処理を決定的に分けます。
| フェーズ | 会計処理 | 具体例 |
|---|---|---|
| 研究フェーズ | 費用処理 (発生時) | 新しい知識の探求、代替案の評価・選択など |
| 開発フェーズ | 一定の要件を満たした場合に資産計上 | 生産前の試作品の設計・製作・テスト、新しい技術を含む金型・治工具の設計など |
2-2. 開発費を資産計上するための「6つの要件」
開発フェーズで発生した支出は、以下の6つの要件をすべて満たす場合にのみ、無形資産として資産計上が認められます。この証明責任は企業側にあります。
- (a) 技術的な完成の実現可能性:使用または売却可能な状態にするために、無形資産を完成させることが技術的に可能であること。
- (b) 完成後の意図:無形資産を完成させて、使用または売却する意図があること。
- (c) 使用または売却能力:無形資産を使用または売却できる能力があること。
- (d) 将来の経済的便益の創出可能性:無形資産が、将来の経済的便益を創出する可能性が高いことを証明できること。
- (e) 利用可能な資源の存在:開発を完成させ、無形資産を使用または売却するために、十分な技術的、財務的およびその他の資源が利用可能であること。
- (f) 信頼性のある支出の測定可能性:開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できること。
なお、内部で創出されたブランド、マストヘッド、顧客リスト、およびこれらに類する項目は、無形資産として認識することは禁止されています。
3. 認識後の測定
ポイント:「耐用年数」の決定が償却方法を左右する
無形資産の償却は、その耐用年数が「確定可能(有限)」か「不確定(無期限)」かによって会計処理が異なります。
| 耐用年数 | 会計処理 |
|---|---|
| 耐用年数を確定できる無形資産 | 耐用年数にわたり、経済的便益の消費パターンを反映する方法(通常は定額法)で償却を行う。 |
| 耐用年数を確定できない無形資産 | 償却は行わない。その代わり、毎期必ず、減損テストを実施する必要がある。 |
測定モデルとしては、原価モデル(取得原価から償却累計額と減損損失累計額を控除)と再評価モデルがありますが、無形資産については活発な市場が存在することが稀であるため、実務上はほとんどのケースで原価モデルが適用されます。
