1. 全ての基本:従業員給付の「4つの分類」
ポイント:会計処理はこの分類から始まる
IAS第19号を理解する鍵は、従業員給付を以下の4つのカテゴリーに分類することです。どのカテゴリーに該当するかによって、会計処理のルールが大きく異なります。
- 短期従業員給付:従業員が役務を提供した期間の末日から12ヶ月以内に全額決済される給付。(例:給与、賞与、有給休暇)
- 退職後給付:退職後に支払われる給付。(例:年金、退職一時金)
- その他の長期従業員給付:上記2つ(短期・退職後)と解雇給付を除いた、決済が12ヶ月超となる長期の給付。(例:長期勤続休暇)
- 解雇給付:企業の意思決定により、定年前に雇用を終了させる対価として支払われる給付。
会計処理は、短期従業員給付を除き、将来の支払額を見積もり、それを現在価値に割り引くという点で共通していますが、その変動をどこに認識するか(純損益か、OCIか)に重要な違いがあります。
2. 退職後給付:本基準の核心
2-1. 「確定拠出制度」と「確定給付制度」の違い
退職後給付は、企業が数理計算上および投資上のリスクを負うかどうかで、2つの制度に大別されます。
| 制度 | 特徴 |
|---|---|
| 確定拠出(DC)制度 | 企業は固定の掛金を拠出するのみ。運用リスクは従業員が負う。会計処理はシンプルで、掛金を費用として認識する。 |
| 確定給付(DB)制度 | 企業は確定した給付額を約束する。運用リスクは企業が負う。会計処理は複雑で、本基準の主要な論点となる。 |
2-2. 確定給付制度(DB)の会計処理:P/LとOCIへの分解
2011年の改訂により、確定給付制度から生じる純負債(資産)の変動は、以下の3つの構成要素に分解され、純損益(P/L)とその他の包括利益(OCI)に振り分けられることが明確化されました。これにより「回廊アプローチ」は廃止されています。
| 財務諸表項目 | 変動の構成要素 | 内容 |
|---|---|---|
| 純損益(P/L) | 勤務費用 | 当期の勤務により発生した債務の増加額。過去勤務費用もここに含む。 |
| 純利息 | 期首の純負債(資産)に割引率を乗じて計算される利息コスト(収益)。 | |
| その他の包括利益(OCI) | 再測定 | 数理計算上の差異(予測と実績の差)や制度資産の実際のリターン(純利息を除く部分)など。OCIに計上後、純利益への組替(リサイクリング)は行わない。 |
3. その他の長期従業員給付と解雇給付
その他の長期従業員給付は確定給付制度に似ていますが、再測定(数理計算上の差異など)をOCIではなく、すべて純損益(P/L)で認識する点が異なります。解雇給付は、企業が給付の提案を撤回できなくなる日、またはリストラ費用を認識する日のいずれか早い日に費用と負債を認識します。

