資産除去債務に対する税効果会計

会計

資産除去債務に対する税効果会計の実務処理


目次

  1. 資産除去債務とは?
  2. 資産除去債務に対する税効果会計
  3. 設例:資産除去債務の会計処理
    • X1年度の決算整理仕訳
    • X2年度の決算整理仕訳

資産除去債務とは

資産除去債務(Asset Retirement Obligation, ARO)とは、「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれ に準ずるものを言います。例えば、オフィスの原状回復費用や工場用の土地を借りている場合の土壌汚染の調査・対応費用などが該当します。

ここでいう法律上の義務に準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を言います。よって、除去が企業の自発的な計画のみによって行われる場合には、法律上の義務に準ずるものとは言えないため、資産除去債務には該当せず、通常の除去に応じて処理を行うことになります。

資産除去債務に対する税効果計算

資産除去債務が発生した場合、資産除去債務を認識することにより、資産(有形固定資産)と負債(資産除去債務)を増加させる会計処理を行いますが、税務上は、資産除去債務の計上は認められないため、資産及び負債の両方において一時差異が生じることになります。

将来加算一時差異については、原則として繰延税金負債を計上することになりますが、将来減算一時差異については、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)に従い、繰延税金資産の回収可能性を検討し、回収可能と認められる部分についてのみ、繰延税金資産を計上することとなります。

資産負債の大小関係一時差異繰延税金項目
資産に計上された額(有形固定資産に含まれる資産除去債務)会計上の資産>税務上の資産将来加算一時差異繰延税金負債
負債に計上された額会計上の負債>税務上の負債将来減算一時差異繰延税金資産

設例

以下の条件に基づき、企業Zの会計処理を行います。

企業ZはX1年末に製造施設用の建物を取得しました。取得価格は200,000円であり、建物の使用が終了した後、法的義務に基づき撤去費用が発生する予定です。当該建物は耐用年数10年、残存価額ゼロ、定額法により減価償却を行います。この撤去費用は5年後に支払われる見込みで、撤去費用の金額は20,000円と見積もられている。撤去費用の割引率は4%とし、割引率により算定されたX1年の資産除去債務の計上額は16,000円であった。法廷実効税率は30%です。

X1年度の決算整理仕訳

(借) 建物      216,000   (貸)  現金預金   200,000

(貸) 資産除去債務  16,000

(借) 繰延税金資産  4,800   (貸) 繰延税金負債  4,800

X2年度の決算整理仕訳

(時の経過による資産除去債務の調整)

(借) 利息費用     640   (貸) 資産除去債務   640

(借) 繰延税金資産   192   (貸) 法人税等調整額  192

※繰延税金資産の計上:640(利息費用⇨将来減算一次差異の発生)×30%=192

(減価償却計上時)

(借) 減価償却費  21,160   (貸) 減価償却累計額   21,160

(借) 繰延税金負債  480   (貸) 法人税等調整額   480

※繰延税金負債の取崩:1,600(会計上と税務上の減価償却費の差額⇨将来加算一時差異の解消)×30%(税率)=480

将来加算一時差異は、毎年480円ずつ減価償却を通じて解消され、最終的に10年後にはその累計額4,800円となり全額解消されることになります。一方、将来減算一時差異は、利息費用の計上により追加で将来減算一時差異が発生し、資産除去債務の履行時(除去時)において全額解消されます。

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