前回記事(【速報】リース会計基準が大きく変わる!ASBJ改正案の核心)では、ASBJが公表した新リース会計基準改正案の全体像と、借り手側でリース契約が原則「オンバランス化」されることの大きなインパクトについて解説しました。
「うちの会社が結んでいるリース契約は、すべてオンバランスになるの?」
「短期間のレンタルや、少額なリース契約も対象になるのだろうか?」
今回は、こうした皆さんの実務的な疑問にお答えするため、新リース会計基準改正案における「適用範囲」と、実務負担を軽減するための「免除規定」について、公認会計士の視点から深掘りします。
自社のリース契約が改正基準の対象となるのか、そして、適用対象外とできるケースがあるのかを正確に理解することは、来るべき基準適用に向けて非常に重要です。
⚡ 本記事で学べること
- 新リース会計基準が適用される「リース」の定義と具体的な判断基準
- 借り手が活用できる「短期リース」と「少額リース」の免除規定
- 免除規定を適用する際の会計士視点での注意点と判断基準
- 中小企業や上場準備企業が今から確認すべき実務上のチェックポイント
1. ASBJ改正案の核心:「適用範囲」を理解する
まずは、そもそも「リース契約」とは何か、そして今回の改正基準が何を「リース」として捉えるのかを改めて確認しましょう。
リースとは何か?「資産の使用を支配」しているかが鍵
現行基準におけるリースの定義は「特定の資産を使用する権利」でしたが、新基準(特にIFRS第16号の考え方)では、リースとは 「識別された資産の使用を支配する権利を、一定期間にわたり対価と引き換えに移転する契約」 と定義されます。
この「使用を支配」しているかどうかが、契約がリースに該当するか否かを判断する上で極めて重要になります。具体的には、以下の要素を検討します。
- 識別された資産の存在: 特定の有形資産(機械、車両、建物など)が契約の対象であること。
- 使用を指図する権利: 誰が、いつ、どこで、どのように資産を使用するかを決定できるか。
- 経済的便益を享受する権利: 資産の使用から生じる経済的便益(収益など)を誰が享受できるか。
会計士視点でのポイント
単なる「サービス契約」(例:清掃サービス、クラウドサービス)と「リース契約」の区別が難しくなるケースが増えるでしょう。
例えば、サーバーのレンタルはリースに見えても、実態として「どのサーバーを使うか」を貸し手側が自由に選択・変更できるのであれば、リースではなくサービス契約と判断される場合があります。契約書の内容だけでなく、実態として「資産の利用者がその使用をどの程度コントロールできるか」が判断の分かれ目となります。
2. 実務上の重要ポイント:借り手の「免除規定」を賢く活用する
原則としてすべてのリース契約がオンバランス化される中で、実務上の負担を軽減するため、特定のリース契約については「オフバランス処理(費用処理)」を認める免除規定が設けられます。これらを正しく理解し、適用することは非常に重要です。
(参照:ASBJ「リースに関する会計基準(案)」解説資料」P.4「借り手の会計処理の簡素化」)
【免除規定その1】短期リース
リース期間が12ヶ月以内のリース契約(更新オプションがない、または行使されないと仮定される場合)は、オフバランス処理(費用処理)が認められます。
- 定義: リース開始日において、リース期間が12ヶ月以内であるもの。
- 会計処理: リース料を定額法その他の合理的な方法により費用として認識します。これは現行のオペレーティング・リースとほぼ同じ処理です。
会計士視点でのポイント
短期リースであると判断する際には、更新オプションの有無や行使の蓋然性が重要です。実質的に継続する意図がある場合は、たとえ契約期間が12ヶ月未満でも短期リースとみなされない可能性があります。また、契約期間を意図的に短くして免除規定の適用を狙う行為は、実態と乖離するため注意が必要です。
【免除規定その2】少額リース
リース対象資産の価値が少額であるリース契約は、オフバランス処理(費用処理)が認められます。
- 定義: リース対象資産の新品時の価値が$5,000相当以下であるもの(ASBJ資料ではIFRS第16号の規定を踏襲)。具体的な日本円での基準は今後確定します。
- 会計処理: 短期リースと同様に、リース料を費用として認識します。
会計士視点でのポイント
この少額基準は、個々のリース資産ごとに判断します。例えば、1台$2,000のPCを100台リースしている場合でも、個々のPCが少額であれば少額リースとして扱えます。しかし、全く同じ少額資産を多数リースしている場合は、その合計額が大きいとして重要性の観点から慎重な判断が必要になることもあります。
【注意】
IFRS第16号では、「資産クラスごと」に少額リースの免除規定を適用しないことを選択できます。ASBJの改正案でも同様の選択が認められるか、今後の審議に注目です。
【免除規定その3】重要性がない場合
特定のリース契約について、個別に評価する必要がないほどの重要性が低い場合は、免除規定の適用が認められることがあります。
会計士視点でのポイント
この重要性の判断は、質的・量的な両面から総合的に行われるため、明確な基準がない分、最も判断が難しい側面があります。監査を受ける企業の場合、監査法人との事前協議が不可欠となるでしょう。特に上場準備企業は、将来を見越して厳格な判断が求められます。
3. あなたの会社はどうなる?中小企業・上場準備企業への影響と対策
これらの適用範囲と免除規定を理解することは、自社の財務諸表がどのように変わるのか、そしてどのような実務負担が発生するのかを予測するために非常に重要です。
免除規定の適用可否判断は「将来」を見据えて
- 現時点では非上場の中小企業であっても、将来的に上場を目指す、あるいはM&Aを検討している場合、上場企業に準じた会計処理の準備が必要です。免除規定の適用は慎重に判断し、適用しない場合のシミュレーションも行っておくべきでしょう。
- 免除規定を適用することで一時的な負担は軽減されますが、将来的に適用しなくなる場合、その際の移行コストも考慮に入れる必要があります。
適用できない場合のインパクトを再確認
- 免除規定が適用できないリース契約が多い場合、前回記事で解説した通り、貸借対照表の負債と資産が膨らみ、D/EレシオやROAといった財務指標が悪化する可能性があります。
- 特に、車両や店舗、工場設備などを長期リースで利用している企業は、そのインパクトを詳細に把握し、経営層への説明責任も生じます。
4. 会計士が提言!今から備えておくべき実務上のチェックリスト
改正基準の適用はまだ先ですが、今から以下の点を確認・準備しておくことで、スムーズな移行が可能になります。
📝 経理担当者が準備しておくべきこと
- □ 全てのリース契約をリストアップする
- 契約期間、リース料、リース対象資産、新品時の価格、更新オプションの有無など、詳細な情報を網羅的に収集しましょう。
- □ 「識別された資産」と「使用の支配」の観点から、契約がリースに該当するかを判断する
- 特に、複合的な契約(リースとサービスが一体となった契約)は、専門家の意見も仰ぎながら慎重に検討が必要です。
- □ 短期リース・少額リースの免除規定が適用できるか判断する
- 自社のリース契約に当てはめて、個別に、あるいは資産クラスごとに適用可否を検討します。
- 免除規定の適用方針を文書化し、社内で合意形成を図りましょう。
- □ リース契約管理体制の見直しを検討する
- 将来的なオンバランス化に備え、現行のリース契約管理が新しい要件に対応できるか、システム面も含めて検証しましょう。
- □ 会計士などの専門家と情報共有を始める
- 複雑な判断を伴う箇所や、自社への影響が大きい箇所は、早めに専門家と相談し、アドバイスを得ることが重要です。
まとめ:適用範囲と免除規定の理解が、スムーズな移行への第一歩
新リース会計基準の改正は、多くの企業にとって避けて通れない大きな変化です。
特に、どの契約が「リース」に該当し、どの契約が「免除規定」を適用できるのかを正確に理解することは、会計処理の複雑さを軽減し、将来の財務戦略を立てる上で非常に重要な第一歩となります。
まだ改正案の段階ですが、最終的な基準確定と適用に向けて、今から自社のリース契約状況を把握し、具体的な対応策を検討し始めることを強くお勧めします。
※本記事は、ASBJの「リースに関する会計基準(案)」解説資料に基づき作成されています。最終的な基準は、今後の審議やパブリックコメントを経て確定されます。
※具体的な会計処理については、必ず専門家にご相談ください。


編集長(公認会計士)のコメント
新リース会計基準の原則オンバランス化は避けられませんが、実務担当者にとって重要なのは、その適用範囲と免除規定をいかに正確に理解し、自社のリース契約に当てはめるかです。特に免除規定の適用は、経理処理の負担を大きく左右するため、その判断は慎重に行う必要があります。実務上の判断基準を明確にし、適切に適用することが求められます。