■ トランプ関税の概要
2025年4月、米国のトランプ大統領は「相互関税」の導入を発表しました。これは、貿易相手国の関税率や非関税障壁を根拠に、米国が同等の関税を課すという新たな貿易政策です。
具体的には以下の内容が含まれます:
- 日本に対して24%の関税を新たに課す(現在の自動車関税は2.5% → 大幅引き上げ)
- その他のすべての国や地域に一律10%の関税を課す方針
- 中国:34%、EU:20%、インド:26%など、個別設定
- 発動は2025年4月上旬から段階的に実施
この「相互関税」には、米国の巨額な貿易赤字や産業の空洞化への対処という名目がありますが、実質的には自国産業の保護と外国製品への制限強化を狙った施策です。
👉 詳細:NHK記事
■ 企業・経済への影響
● 日本企業への影響
- 輸出企業の価格競争力が低下:米国市場向け製品に24%の追加関税が課されることで、現地価格引き上げまたは利益圧縮を迫られる。
- 特に自動車、電子部品、工作機械などの業種が直撃。
- サプライチェーン見直し:米国を通じた物流・調達体制に再構築圧力がかかる。
● 為替・投資マインドへの影響
- 通商不安から円高圧力が強まりやすく、輸出企業の円換算収益が目減りする。
- 国内外の設備投資に慎重な姿勢が強まり、経済全体の成長にも下押し圧力。
■ 会計処理への影響
● 将来キャッシュ・フロー見積もりに基づく会計処理への影響
トランプ関税2025の導入は、企業の将来キャッシュ・フロー見積もりに基づくさまざまな会計処理に波及的な影響を与える可能性があります。特に、関税コストの上昇や販売数量・単価の見直しが求められることで、以下のような分野で財務報告上の再評価が必要になります。具体的な税率の公表は4月に入ってからでしたが、3月時点で関税措置に関する議論・兆候が認識可能だった場合には、会計上、期末の将来キャッシュ・フロー見積りに反映すべきであると考えられます。
① 税効果会計(繰延税金資産の回収可能性)
将来の課税所得の水準が関税によって下振れする場合、繰延税金資産の回収可能性の再検討が求められます。税務上の欠損金や一時差異の回収が困難になる恐れがあり、評価性引当金の追加計上につながる可能性もあります。
② 棚卸資産の評価
原価増や売価下落により在庫の収益性が損なわれた場合、棚卸資産評価の見直し(低価法の適用)や減損処理が必要となることがあります。将来販売価格を見積もるうえで、関税による市場価格の変動や数量制約を考慮することが重要です。
③ 減損会計、リース、退職給付債務など
その他にも、関税影響を含む将来キャッシュ・フローが基礎となる会計処理(たとえば減損テスト、リース資産の使用価値評価、退職給付債務の算定など)においても、見積りの前提条件として経済環境の変化を反映させることが求められます。
● 開示への影響
- 有価証券報告書・決算短信等において、関税の影響は「重要な会計上の見積り」「事業リスク」としての開示が求められる。
- 3月決算会社においては、今後重要な状況の変化が生じた場合には、修正後発事象なのか、開示後発事象なのか、判断が要求される。
■ まとめ
トランプ関税2025は、企業活動に直結する大きな環境変化です。特に輸出依存型のビジネスモデルやグローバルサプライチェーンを持つ企業は、収益・キャッシュ・財務諸表の3側面で多角的な影響を受けることが予想されます。
会計処理においても、制度的なタイミングに依らず、実質的な影響の兆候がある時点で見積りに織り込む姿勢が求められます。経理・財務・経営企画部門が連携して迅速かつ適切に対応することが重要です。